2008/01/11

「浅見光彦シリーズ」

歌わない笛」、以前の作品でも登場した、ヴァイオリニストの本沢千恵子が再び出てくる作品で、何となく親近感を持って読みました。昨年の夏に、ham君の出張に一緒に連れて行ってもらって訪れた倉敷も舞台の一つとなっており、地理や町並みを容易に思い浮かべながら読むことができ、この意味でもとても楽しめました。その他にも、犯人像が見えそうで見えない謎めいた作品だったため、エンターテイメントとしても充分にエンジョイでき、読み終わった後は、「あー、楽しかった!」と、とても満足な1冊でした。

怪談の道」、この本には小泉八雲の 小説の一部が冒頭に記されています。浅見光彦氏が取材で訪れた土地を舞台に、かつてハーンが書かいた作品に浅見氏が興味を示し、ハーンの足跡を辿っているうち、事件に巻き込まれてしまします。推理小説としても面白い一冊でしたが、それ以外でも、新しい知識を多く仕入れられ、又、考えさせられることの多い本でもありまし た。

まず、ハーンについて。日本の紹介者としては非常に有名であるにも関わらず、私はお恥ずかしながら、全く知りませんでした。ところ が、Wikipediaを読むと、この推理小説の題名にもあるハーンの著書『怪談』では、「耳なし芳一のはなし」「ろくろく首」など、知っている話もあ ります。ぜひ、機会を作って今一度、著作を読んでみたいと思いました。

次に、本作品での浅見光彦の思考回路の記述について。私の覚えている限り、又、知る限りにおいて、初めてではないかと思います。本文を少々引用させてもらいます。

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人間の心の中にある宇宙は、他人と共有できるものとできないものがある。生まれたばかりの赤子の心は、おそらく無垢で垣根も壁もなく、誰とでも交流できる自由な宇宙だったに違いない。成長するにつれて、人は心に垣根を巡らせ、自ら宇宙を狭くする。
 
ことによると、浅見の心の中には、赤子のような、のびやかで、自由な宇宙があるのかもしれない。

子 供のころ、よく、ぼんやりと考えごとに耽っては、教師の声を聞き逃したりすることがあった。浅見の学業成績が必ずしも芳しくなかったのはそのせいでもあ る。あなたの周囲にだって、一見、ボーっとしているように見える子供たちが少なくないのではないだろうか。しかし、そのとき彼は、どこか外界の宇宙と交信 しているのである。この表現が嘘くさければ、心のどこかに開いた窓から、途方もなく遠い世界の風景に思考のほとんどを奪われていると言ってもいい。

されに言葉を変えて言えば、それは豊かな空想力の飛翔である。

だが、おとなたちは、彼の空想壁を認めたり許したりはしたくない。世の中をまっとうに生きていくためには、空想は無用であるし、ときには危険でもあるのだ。学力社会で勝利するためには空想は役に立たないし、早い話、そんな調子で道路を歩いていたら危なくてしようがない。

こうして大抵の人間は、おとなになると同時に、あるいはそれ以前に、空想力のほとんどを喪失する。浅見のように、いつまでも空想壁を失わない者は、幼児性を引きずっている落ちこぼれ扱いされるものである。

空想は心の宇宙の広がりの豊かさであるところから、それは他人の心を思いやる優し
さに通じる。あるひとが今、何を考え、何を欲しがっているのかを悟ることができる。あるいは、その時、彼は何を考え、何をしようとしたのかを推し量ることができる。
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私 は人間の持つ能力の中でも、空想や想像、推測といった類のものは、非常に大切であると考えています。これは身近な生活環境に置き換えてみると、上記の内田 康夫氏の文章にもあるように、「人の立場に置き換わって考える」という行為に現れてくるのだと思います。相手を思い遣る、愛しむといった、とても人間的な 感情に大きく貢献している能力なのだと考え、とても興味を覚えます。上記の文章は一般論で書かれているように思いますし、なにぶん小説の中のものですから、文学的であり、科学的な視点は濃くはないと思われますが、興味深いという観点からはとても心に残る文章でした。

右 の写真の小説、『』。どうなるのか、どうなるのか、と最後まで気が抜けず、ついつい読み耽ってしまう、そんな一冊でした。小説の中の時間で、”最近”起こった二つの殺人事件と、過去に起こった殺人事件が絡み合 い、新たな殺人が起こってしまいます。これらを解決しようと浅見光彦氏が奔走するなかで、さらに起ろうとしている新たな犯罪を食い止める、そんなハラハラ、ド キドキのストーリーでした。”カネ”というキイワードに翻弄された浅見光彦氏が、日本を西へ東へと移動するのを、まるで一緒に動いているように感じながら、あっと言う間に読みきってしまいました。



さて、「ねずみグッズ」。
懐かしい第一回テニス合宿で
ねぇさんがham君にプレゼントして下さったカスタネット。
押さえると「チュ~」と鳴きます。
ham君命名、『鳴きねずみ』。

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