2008/03/11

がらくた

『がらくた』、江國香織さんの小説のタイトルです。とても印象深い一冊でした。折りしも、友人と”夫婦について”語り合った時期に読んだものですから、尚更、感慨深いものがありました。

小説はある一組の夫婦について、その周囲を取り巻く様々な人の視線から書かれています。この夫婦がとても現実離れした(小説ですから当たり前ですが)ルールで成り立っているのです。もちろん、夫婦の誓約をした二人ですから愛し合っているには違いないのですが、お互いにパートナーとは異なる異性との関係も持っているのです。

もともとは結婚以前より夫が複数の女性と交友関係を持っており、結婚後もこの様な状態を変化させる意思がなかったところから、この奇妙な状況は生まれます。結婚後、妻は夫の行動を良しとは認めず、それこそ大いに怒るのですが、夫の答えは「NO」。常に眼の前に”いる”、或いは”ある”ことが現実で、これに真剣に取り組む、というのが彼のポリシーの様。しかし、だからといって妻を忘れているのではなく、むしろ妻から離れることで、妻の存在の大切さを自覚しているのだとか。そして、夫は妻にも自分以外の男性と付き合うことを勧めます。もちろん、妻はこの夫の考え方を受け入れるのに苦労をするのですが、最終的には夫の生まれながらにして持つ「素直さ」として解釈するようになります。

この小説を読んで二つのことを考えました。

先ずは、お互いがお互いの存在を特別なものとして思い続けること、そのことの大切さと難しさについてです。お付き合いを始めた頃、また、一緒に暮らし始めた頃は、新鮮味と程よい緊張感が相俟って、お互いの存在を大いに意識し、また、お互いをより良く知り、数多く起こる問題にも上手く切り抜ける努力を怠らないものと思います。ところが、1年、2年と日を重ねる毎に問題の起こる回数も減り、新鮮だったお互いの生活習慣も文字通り週間となり、緊張感がダラダラした雰囲気へと変貌を遂げることもあるのではないでしょうか。『がらくた』に登場した夫婦は、パートナー意外の異性との交友関係を持つことを、生活に常に新鮮味と緊張感、そしてお互いを大切と思い続ける為のスパイスにしてるのでは…と思いました。

もう一つは、夫婦の歴史について、です。『がらくた』に出てくる夫婦は、結婚に際して妻が夫の習慣に多大なる抗議をし、議論を繰り返し、最終的にはお互いにそこそこ納得できる場所に落ち着きます。そして、お互いを大切な人として夫婦である状態を継続していきます。全く異なる環境で生まれ育ち、考え方、生活習慣の一つ一つ、それこそ全てにおいて違う二人が一緒に暮らすのですから、お互いの言動に対して対抗を感じることもあれば、憤慨することもあるでしょう。それを、一つ一つ丁寧に拾い集めて話し合って、お互いに納得行く場所に辿りつく、この作業がいかに体力と精神力を要するか…。しかし、これが夫婦の歴史になり、積み重なることで更なる信頼を構築できるのだろうと思います。

冷たい言い方になりませすが、夫婦とは言うものの元を正せば他人だった二人であることは事実です。結婚という法的な契約をし、家族、友人の前で誓約をしたからといって、その後、常に平穏な生活が約束されているわけではありません。もちろん結婚はゴールではなく、スタートなのですから。さて、ham君と私、私たち夫婦はどうなのでしょうか。常にお互いを大切な存在と思い、例え躓いた石が取るに足らない小石であっても、しっかりと二人で向き合って話し合い、そして、二人だけの軌跡を残して行きたいものです。

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