2008/05/03

忘れかけたころに…

随分前に読んだ本、4冊について。そろそろ図書館に返却しないといけないので、その前に一言だけでも感想を…と思い、PCに向かっています。誰に頼まれたわけでもないのに、律儀に感想なんてと思うのですが…、なんとなく記録に残したくて…。と言いつつも、日々記憶は薄れる一方で、どのくらい正確にストーリーを覚えているかは疑問だったりします。昨年、他界した私の母方祖父は驚くほどの記録魔で、その日記を見るや凄かったのですが、こんなふうに「記録したい」欲がムクムク沸くあたり、祖父のDNA!?を受け継いでしまったのでしょうか。

さて、感想文。

先ずは『ぼくの小鳥ちゃん』。

これは「あー、楽しかった」の一言に尽きます。ある日、アパートの窓辺にやってきた小鳥と一緒に住むことになった青年の日々を描いた物語なのですが、青年と小鳥ちゃんとのやり取りが本当に興味深い!なんと言うか、二人(!?)の間の距離感というか、青年が小鳥ちゃんに抱く感情が、両親や兄弟姉妹に対するものに類似していたり、恋人や友達へのものに近かったりと、誰もが一度は抱いたであろうものなのですよね。懐かしくなったり、我が身を振り返ったりして読みました。そして、時に過去の自分に恥ずかしくなったり、後悔してみたり…。でも、読み進めずにはいられない一冊でした。

『薔薇の木 枇杷の木 檸檬の木』。

以前より気になっていた一冊、漸く読むことができました。9人の女性の、それぞれの視点から物語が構成されています。そして、その女性たちは間接的に関わりを持っていきます。例えば、花屋の店員とお客だったり、不倫相手の妻だったりというように。その中でも三人の女性に私は興味を抱きました。女性は離婚を決心し独身に戻る人…夫との暮らしを持ちつつ不倫をする人…今、まさに離婚を決心する人。何れの女性も、他人からは羨望の眼差しで見られる暮らしを手にしているのですが、何故か歯車が噛み合っていない、そんな隙間を持っているのです。それは自身のパートナーと暮らすことでは埋められない、「何か…」のようでした。そんなことを書くと、パートナーを持つ私は不安に陥ったりもするのですが…。物語の中の女性達は、どうやらパートナーとのコミュニケーションが上手くいっていないのではないか、という節がありました。自身の中で問題発生を確認、自身の中だけで咀嚼し、そして結論を出す、というように自己完結し、パートナーとの共有が感じられないのです。私は江國香織さんの本では、「言葉によるコミュニケーション」、がその大きなテーマとして根底にあるように思うのですが、そしてまた、私もこれに大きく賛同する一人なのですが、この物語では特にその大切さを痛感させられました。

『思いわずらうことなく 愉しく生きよ』。

思い煩うことが多い私としては、軽くショッキングなタイトルで、図書館で借りるのに勇気が要りました。この物語、犬山家という家族について、その3姉妹のそれぞれの視点から話が進んでいきます。長女は結婚し夫のDVを受けながらも、これを隠しつつ、しかし脅えつつ暮らしています。次女は米国での留学、就職を経て帰国、日本で就職、恋人と生活を共にしていますが結婚は望まず、結局、その恋人とは別れてしまいます。三女は特定の恋人はおらす、何人もの人とお付き合いをしているのですが、ある時から一人の男性とのお付き合いに意識が向いていきます。この3姉妹の両親は父親の女性問題から離婚しています。『思いわずらうことなく 愉しく生きよ』というのは、家族揃っていた頃の犬山家の家訓です。長女は両親の離婚で受けた精神的なダメージを引き摺りつつ、夫のDVにも絶えながら、それでも閉じ籠もった孤独な世界から飛び出し、新しい人生を自ら切り開いていきます。次女は自分自身の生き方のスタイルを貫く、つまり、一緒に暮らした男性のと過去をすっぱり断ち切って、新しい生活を始めます。三女もかつての自身の人間関係をまるで集約して行くかのごとく居場所を見つけ、新しいスタイルの人生を送る道を選びます。三人三様、それぞれに『思いわずらうことなく 愉しく生きよ』という家訓に恥じない、自分の身の丈に合う道を見出す、そんな物語だったと思います。『思いわずらうことなく 愉しく生きよ』とは素晴らしくもあり、難解で、でもやはり、そうありたいと願う言葉です。

『Love Songs』。

これは色々な作家さんによる短編が一冊の本になったものでした。その中に江國香織さんの『Cowgirl Blues』という作品が収められていました。光彦という男性に失恋した、美也という女性についての短編でした。美也は光彦と出会うまでにも何人もの男性とお付き合いしてきましたが、光彦との恋愛は特別なものだったようです。この物語は失恋してからの数日間を描いたもので、光彦との日々を振り返るシーンと、失恋に激しく悲しむ現実とが、時間軸をクロスさせて書いてあります。それは、本当に読んでいる者の心も痛むような、失恋を経験した人にはわかるであろう、苦しくも悲しくもある、そんな苦悩の日々です。その物語の進行は凄いと思いました。物語の中で、最終的に美也は光彦を取り戻しに行きます。そんな形振り構わない、自分の気持ちに正直にならざるをえないとき、きっと一生に一度はあるのだと私は信じています。

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