2008/06/15

贅沢な読書

『未来への地図-新しい一歩を踏み出すあなたに-』は、ある中学校の卒業式での記念講演の内容を本にしたものでした。易しいことばで書かれているのですが、星野道夫氏自身の経験から溢れ出る自然への、又、人生への熱い思いが滲み出ている一冊だと思いました。

私は中学生、あるいは高校生のころには星野道夫氏のことを知っていたと思います。私の恩師であり、人生の先輩として尊敬しているmitzさんから教えてもらったのだと思います。せっかく教えて頂いたのに、当時は今ほどに熱心に著書を読んでおらず、お粗末な知識でしかありました。

その後、星野道夫氏のことを積極的に頭の片隅に置くようになったのは、1996年のこと。ヒグマの事故により急逝されたというTVのニュースを見てからでした。何故、そんなにしてまで大自然の中に入っていかなくてはいけないのか…。今、思えば本当に失礼極まりないことなのですが、人間が悠久の自然に入っていくこと、その是非について、又、人間と自然との共生とはいかなるものかについて考えていました。

今年2月に東京に行った際、偶然にも『星野道夫写真展 「星のような物語」』に出会い、10年間の時を経て再び当時の疑問にぶち当たりました。しかし今回は、ただ自分の中で考えるというだけではなく、星野道夫氏の著書を読んで、その中のご本人ときちんと向き合おうと思いました。

人間が、星野道夫氏が自然界に足を踏み入れたことについて、私は間違った見方をしていたと気が付きました。星野道夫氏の追いかけた自然とは、以前よりイヌイットの人々が命を共にしていた自然だったのです。そして星野氏は、現地の人々と変わらぬやり方で、また自然の時間の中で生きていたのでした。

『未来への地図-新しい一歩を踏み出すあなたに-』の中で、何千年も前にできた氷河の氷の一片を砕き、炎で溶かして飲むことがなかなか良い気持ちだ、といった文章があったと思います。大きな自然の時間の流れのほんの一点に身を置く一人の命、それがいかに短いものかということに早くに気付くことの貴重さ、そしてその短い一生の間に自分のしたいことにひたむきになれる幸運、この素晴らしさについて、星野氏は本著にて私たちに語りかけて下さっている様に感じました。

例えば東京の真ん中にいても、北極圏で雄大な自然に囲まれた小さな集落で暮らすイヌイットの人たちがいる、と想像できること。地球には今自分が生きている時間が、最果ての地とも言えるような北極圏の村にも
平等に流れていること、これを思い浮かべられること。この幸せ。ついつい目の前のことだけに必死になってしまいがちな日々、地球規模、宇宙規模の時間軸に自身の身を置いて、自分の人生を振り返れる贅沢。これを星野道夫氏の本から頂いているような気がします。

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